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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7152号 判決 1981年10月30日

原告 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 赤澤俊一

同 榎本峰夫

被告 乙山商事運輸こと 乙山五郎

右訴訟代理人弁護士 古閑陽太郎

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録一記載の家屋、同目録二記載の車庫及び同目録三記載の土地をいずれも明け渡し、かつ、昭和五四年七月一日から右各明渡済みまで一か月金一六万円の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(主位的請求)

主文第一、二項と同旨の判決及び仮執行宣言

(予備的請求)

1 被告は、原告に対し、別紙物件目録一記載の家屋を明け渡し、同目録第二記載の車庫を収去して同目録三記載の土地を明け渡し、かつ、昭和五四年七月一日から右各明渡済みまで一か月金一六万円の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告に対し、昭和四八年二月一日、原告所有の別紙物件目録一記載の家屋(以下「本件家屋」という。)のうち一階西側部分九・九一平方メートル(以下「本件家屋一階西側部分」という。)を賃料一か月金三万円で、事務所として使用する目的で、同目録三記載の原告の三男訴外甲野三郎(以下「原告の三男」という。)所有の土地(以下「本件土地」という。)を賃料一か月金四万円、被告の運送業のための駐車場として使用する目的で、期間は両者とも同日から三年間との約定で各賃貸し、これらを引き渡した。

2  原告は、被告に対し、昭和四八年六月二一日、本件家屋のうち右1の賃貸借に係る部分以外の部分(以下「本件家屋の残りの部分」という。)を、賃料一か月金八万円、居住用として、期間は同年七月一日から三年間との約定で賃貸し、これを引き渡した。

3  原告が被告の申入れを受け、本件土地上に取りこわしの容易な簡易設備程度の車庫の建築を承諾したところ、被告は昭和四九年七月ころ、右承諾の範囲を超えた別紙物件目録二記載の車庫(以下「本件車庫」という。)を建築した。

4  原告は、昭和五一年六月二九日被告との間で本件家屋及び本件土地の各賃貸借契約を更新するにあたり、被告から本件車庫の贈与を受け、本件家屋、本件土地及び本件車庫を各賃貸し、賃料は一か月合計金一六万円、期間は同年七月一日から三年間とする旨合意した(以下、「本件各賃貸借契約」という。)。

5  原告は被告に対し、昭和五三年七月一三日到達の内容証明郵便をもって、本件各賃貸借契約の更新を拒絶する旨の意思表示(以下「本件更新拒絶」という。)をした。

6  本件建物の賃貸借契約の本件更新拒絶には、次のような正当事由がある。

(一) 原告は、昭和一六年六月に本件家屋を購入して以来同家屋に居住してきたところ、昭和四七年暮ころ、訴外畠山茂(以下「訴外畠山」という。)から、「訴外甲野太郎(以下「原告の夫」という。)が以前代表取締役をしていた訴外東京運輸株式会社(以下「訴外東京運輸」という。)で学生時代アルバイトをしていた被告が、その後独立して運送業を営み訴外東京運輸の下請け等をしているが、駐車場がないため運送事業の免許が取れずに困っているので、被告が免許を取るために事務所及び駐車場として本件家屋の一部及び本件土地を被告に賃貸して欲しい。」旨の依頼を受けた。

(二) 原告は、その当時、二、三年先には原告の三男が社会人として一本立ちし、原告と同居することになっており、その際には本件家屋を建て替える必要があったため、長くは貸せない旨の事情にあったので、被告に対し、原告側の右事情を被告に説明し、賃貸期間を三年間とすることを提案した。被告も、陸運局の免許が取れて事業が軌道に乗るまで長くても五、六年であり、免許さえ取れればどのようにでもできるから期間を三年とすることを了解し、期間満了の際には間違いなく明け渡し、原告には迷惑をかけないと被告が確約したので、昭和四八年二月一日に締結したのが前記1各賃貸借契約である。

(三) そして、通常、運送事業等の営業目的のために家屋及び土地を賃貸する場合はかなりの権利金の授受をするのが普通であるが、右各賃貸借は、あくまでも被告の免許取得の便宜のために短期間に限定されていたため、権利金の授受もされなかった。

(四) 原告は、その後、被告から、通勤が不便であるし、子供も生まれるころなので、是非本件家屋を全部貸して欲しいとの依頼を受け、右(一)ないし(三)と同様の事情の下に前記2の賃貸借契約を締結した。

(五) その後、原告は、被告から、本件土地上に車庫設備を建築したいとの申入れを受けた。前記1の本件土地の賃貸借契約においては、本件土地を現状のままの状態で駐車場として使用することとされ、建物を建てられないこととなっていたが、原告は、車庫建築の申出を拒絶して被告の営業ができなくなっては気の毒と思い、取りこわしの容易な簡易設備程度の車庫の建築を了承した。ところが、被告は、前記3のとおり昭和四九年七月ころ、勝手に本件土地上に右の程度を超えた本件車庫を建築してしまった。原告としては、被告に取りこわしを要求するのは酷なので、前記4のとおり被告に対し、本件車庫を原告に贈与するよう求めて、その旨合意し、それを前記4記載のとおり本件家屋及び本件土地と共に被告に賃貸したのである。

(六) 原告は、本件家屋を全部賃貸した後アパート等を借りて居住場所を転々と変えているが、明治三九年生まれの高齢であり、いつまでも一人暮らしを続けるのは困難な状態である。一方原告の三男は、沖縄での仕事を終え本件更新拒絶申入後すでに東京に戻り、現在妻子三人と妻の実家で仮住まいの身であり、原告とその三男の家族は本件家屋を建て替え、同所に同居したいとの強い希望を持っており、そのためにも、本件家屋、本件土地及び本件車庫の各明渡しが必要である。

(七) 被告は、本件更新拒絶の意思表示を受領した後も、本件家屋及び本件土地に代わるべき事務所、住居及び駐車場を深す努力を全くしていない。

また、被告は、本件家屋及び本件土地の明渡しに関する原告との交渉においても、誠意ある態度を示さなかった。

(八) (正当事由に関する被告の主張に対する認否)

請求原因に対する認否6の(八)の事実中、被告が、本件家屋、土地で運送業を営み、従業員を多数かかえ、営業車両を多数所有し、本件建物にその妻、子供二人と共に居住している事実は認め、その余の事実は否認する。

被告は営業上の必要をいうが、被告は、昭和四九年当時既に陸運局の許可をとり、当初の賃借目的は達しており、また、本件土地以外にも営業車両の駐車場を賃借しており、しかも、手広く営業しており、その経営手腕からすると、本件土地に代わる駐車場を確保することは困難ではない。

7  (予備的主張)

仮に、被告から原告に対する本件車庫の贈与が認められないとしても、原告は、被告と前記4のとおり本件家屋及び本件土地の各賃貸借契約を更新し、右5のとおり被告に対し、右各賃貸借契約の更新拒絶の意思表示をした。

8  よって、原告は、被告に対し、本件家屋、本件土地及び本件車庫の各賃貸借契約(予備的に本件家屋及び本件土地の各賃貸借契約)の期間満了による終了に基づき、本件家屋、本件土地及び本件車庫の各明渡し(予備的に本件家屋の明渡し並びに本件車庫収去及び本件土地の明渡し)を求めるとともに、右各賃貸借契約の終了の日の翌日である昭和五四年七月一日から右各物件の明渡済みまで一か月金一六万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実中、被告が車庫を建築することにつき原告の承諾を得て、本件土地に本件車庫を建築した事実は認め、その余の事実は否認する。右車庫の建築時期は昭和四九年八月一日で、本件車庫の規模は原告から得た承諾の範囲内である。

4  同4の事実中、原告が昭和五一年六月二九日被告との間で本件家屋及び本件土地の各賃貸借契約を更新し、賃料は一か月金一六万円、期間は同年七月一日から三年間とする旨合意した事実を認め、その余の事実は否認する。

運送業を営む以上有蓋の車庫がなければ運送事業の免許が得られないわけで、被告は、本件土地に車庫を建築できるという条件で本件土地を賃借したのである。

本件車庫を建築するにあたっては、被告は、原告との約束に従い、原告の承諾を得て建築したものである。また、車庫の規模も、本件土地が「準防火」「商業地区」であるから本件車庫程度の改造が必要で、しかも原告の夫は基礎工事の段階から再々本件現場を現認していたのであり、原告から得ていた承諾の範囲内のものというべきであって、本件車庫の所有権は被告にある。

ところが、昭和五一年六月二九日本件建物及び本件土地の各賃貸借を更新するにあたり、原告から本件車庫について決して権利主張などしないので、所有権保存登記をせずに、書類上原告の所有物とし、それを被告が賃借する形にして欲しいと再三頼まれた結果、公正証書上本件車庫も原告から賃借するという形にしただけであって、実際に本件車庫を原告から賃借しているものではない。

5  同5の事実は認める。

6  (正当事由)

(一) 同6の(一)の事実中、被告が運送業を営み訴外東京運輸の下請け等をしていたが駐車場を有していなかったことは認め、その余の事実は否認する。賃貸借の話は原告の方から訴外畠山を介して被告に持ちこまれたものである。

(二) 同6の(二)の事実は否認する。昭和四八年二月当時原告の夫は他の女性と同棲していたため、原告は一人で本件家屋に居住しており、その生計を維持するため何らかの収入の方途を考えざるを得ない状況にあった。このため、原告は本件家屋を被告に賃貸し、賃料収入を自己の生活費に充てることにしたものと推察される。原、被告が昭和四八年二月一日に最初に締結した各賃貸借は、かような背景のもとでなされたものであって、賃貸借期間を三年間という短期間に限る旨の約定はされていない。

(三) 同6の(三)の事実中、権利金が形式的には授受されていないことは認めるが、その余の事実は否認する。すなわち、当時としては極めて高い賃料を払うこととしたのは、それによって実質権利金を支払うことにして欲しいという原告の要求に応えたものである。

(四) 同(6)の(四)の事実は否認する。原告から被告に対し、本件家屋は日当りが悪く、すきま風も入るため、身体に良くないから、本件家屋の残り部分も全て借りてくれないかと申入れがあったため、被告はこれを住居として借り受けたのであって、当時既に被告には子供があり、原告主張のような申込みをするはずがない。

(五) 同6の(五)の事実は否認する。本件車庫は、被告があらかじめ原告の了解を得た上で建築したものであり、被告はこれを原告に贈与したことはない。

(六) 同6の(六)の事実中、本件家屋の残りの部分の賃貸前原告がこれに居住していたこと及び現在原告がアパートに居住していることは認め、その余は否認する。すなわち、原告は、原告の夫の女性問題をかかえ、かつ、子供と不仲であり、現に被告が原告から本件土地等を賃借した当時も本件家屋に原告一人で居住していたほどである。

したがって、原告がその三男夫婦と一緒に生活するということは考えられないことである。

また、原告の家族は、原告又は家族名義で多くの不動産を所有し、原告が居住の場所に困ることなどあり得ない。

(七) 同6の(七)の事実は否認する。

(八) (正当事由に関する被告の主張)

被告は本件土地、建物で運送事業を営み、従業員は正社員だけで一三名、その他臨時の運転手を常時数名をかかえ、被告所有車両は大型一一トン貨物二台、普通四トン貸物四台、普通二トン超貨物一台、小型二トン六台及び乗用車一台の合計一四台を所有しており、本件土地建物が営業の本拠地となっている(一部の車両は近隣の駐車場に収容している。)。また、被告は、妻子供二人と共に本件家屋に居住しており、生活の本拠にもなっている。

したがって、本件土地、建物を明け渡すことは、被告の営業と家庭生活を破壊することとなり、また、ひいては従業員の生活をも破壊することになるので全く困難、不可能である。

7  同7の事実は認める。

8  同8の主張は争う。

三  抗弁

被告は、本件各賃貸借契約の期間満了の日である昭和五四年六月三〇日を経過した後も、本件家屋、本件土地及び本件車庫の使用収益を継続している。

四  抗弁に対する認否

認める。

五  再抗弁

原告は、被告に対し、昭和五四年七月六日到達の内容証明郵便をもって、被告が本件家屋、本件土地及び本件車庫を賃貸借期間終了後も使用収益していることに対し異議を述べた。

六  再抗弁に対する認否

認める。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  同2の事実は当事者間に争いがない。

三  同3の事実中、被告が車庫を建築するにつき原告の承諾を得て、本件土地上に本件車庫を建築した事実及び同4の事実中昭和五一年六月二九日原告が被告との間で本件家屋及び本件土地の各賃貸借契約を更新し、賃料は一か月金一六万円、期間は同年七月一日から三年間とする旨合意した事実は、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、本件車庫の建築が原告の与えた承諾の範囲を超えたので、原告は被告から右車庫の贈与を受けた上、被告に賃貸した事実等の右の争いのある事実の存否について検討する。

《証拠省略》並びに右一、二の各争いのない事実及び三の冒頭の争いのない事実を総合すると、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

1  被告は学生時代訴外東京運輸でアルバイトをし、卒業後も右訴外会社の下請け等をしながら、個人で運送業を営んでいたが、車庫を持たず(以上の事実中、被告が右訴外会社の下請け等をしながら、個人で運送業を営んでいたが、車庫を持っていなかった事実は、当事者間に争いがない。)、運送事業の免許を取得していなかったので、昭和四七年暮ころ同じく訴外東京運輸の下請けをしていた訴外畠山に車庫の貸主のあっせんを依頼したところ、訴外畠山はもと訴外東京運輸の代表取締役にあたる原告の夫に、「被告が運送事業の免許を取るために本件家屋と本件土地を被告に貸してやってもらえぬか。」と依頼した。

2  原告は、昭和一六年六月本件家屋を購入して以来右家屋で生活し、右昭和四七年暮ころも原告の夫と二人で右家屋に居住していたが、老齢のため、数年後には本件建物を建て替え、本件土地を含む本件建物の敷地である別紙物件目録三記載の全体の土地(以下「本件全体土地」という。)の所有者である原告の三男夫婦と同居する予定であったため、本件家屋と本件土地を他人に賃貸することに反対であった。

しかし、原告は、原告の夫から「畠山同様俺がめんどうをみてきた被告に免許を取らせるために本件家屋と本件土地を貸してやって欲しい。」旨要請され、親せき筋にあたる訴外畠山からも同様の懇請を受けたので、本件家屋と本件土地を被告に貸すことをようやく承諾した。

3  そこで、原告は、被告に対し、本件土地等を賃貸するに際し、①近々本件家屋を建て替えて、原告の三男夫婦と同居する予定であるので、本件土地等は長くは貸せない、したがって期間は三年とする。②本件土地は被告の営業車両の駐車場として、現状のまま使用する。③原告が本件土地に建物を建てる等その使用を必要としたときは、予め相当の期間を定めて、その明渡しを求めるので、被告は右指定の期日までに右土地を明け渡す。等の条件を出したところ、被告も運送事業の免許が取れれば、後はどのようにでも対処できるとして、原告の出した条件を承諾したので、原告は、昭和四八年二月一日、被告に対し、本件家屋の一階西側部分と本件土地を前記一のとおりの内容で賃貸した。ただし、運送事業の免許を取得するためには、屋根のある車庫を有していることが必要であったため、被告が本件土地上にそのために必要な取りこわしの容易な簡易設備程度の車庫を築造することは原告も承諾していた。そして、被告、原告の夫及び訴外畠山は、運送業に通じていたため、当時そのために必要な最小限の車庫の構造、規模は屋根付きの軽量鉄骨造りで、車両二台分位収容できる一八平方メートル程度の広さのものである、ということを熟知していた。

また、原告は、賃料は世間並みとしたが、賃貸に伴う権利金は賃貸期間を三年と限定していたため被告からとらないことにした(権利金名目で金銭の授受がないことは、当事者間に争いがない。)。

その上、原告は三年後には被告から本件土地等の明渡しを確実に受けられるように昭和四八年四月に右①ないし③等の賃貸条件を盛り込んだ賃貸借契約公正証書を被告との間で作成している。

4  そして、原告夫婦は本件家屋の残りの部分に居住していたが、本件家屋の一階西側部分の事務所に毎日出勤していた被告の父から被告は子供が生まれ、毎日通うのに不便であるので本件家屋の残りの部分も被告の住居として貸して欲しい旨の依頼を再三再四受けていたことと、原告の側にも家庭的な問題から本件建物から一時立退く必要が生じたことから、前記二のとおり、原告は被告に昭和四八年七月一日から本件家屋の残りの部分をも期間三年の約束で賃貸することとし、前同様約束の期限の到来後明渡しを確実にするために、賃貸借契約公正証書を作成し、原告夫婦は他にアパートを賃借し、同所に転居した(原告がアパートに転居した事実は、当事者間に争いがない。)。

5  被告は昭和四九年八月一日には、本件土地上に請負代金二四一万四〇〇〇円をかけて、鉄骨造りで、面積も五二・五〇平方メートルに及び、しかもシャッター付きという本件車庫を建築したが、その構造、規模は原告が承諾した範囲をはるかに超えるものであった。この構造、規模は運送事業の免許を取得するために必要な最小限度の範囲をはるかに超えるもので、この結果は被告が大規模な車庫の建築を計画したために消防署から要求された種々の基準を満たしたため生じたものである。

6  原告は、その完成後に本件車庫が建築された事実を知り、その構造、規模が承諾した範囲を超えていることに驚いたが、その後本件家屋の建替えの計画も現実化するまでに至らなかったので、本件家屋の残りの部分の賃貸期間の満了する直前の昭和五一年六月二九日本件家屋全体及び本件土地の各賃貸借契約を、期間を同年七月一日から三年間として更新した。その際、原告は、被告が原告の承諾した範囲を超える車庫を建築したことから三年後の本件土地等の明渡しについて不安を感じたので、その明渡しを確実に受ける方策として、本件車庫を、無償で原告の所有物とすることを被告に了承させた上、本件家屋及び本件土地と併せて、本件車庫を賃貸するとともに、前同様賃貸借契約公正証書を作成するという手段を講じた。

なお、その賃料は一か月金一万円を増額するにとどめ、合計金一六万円とし、更新料はとらないことにした。

右各認定から、被告が原告の了承した範囲を超える本件車庫を建築したため、原告は、被告から本件車庫の贈与を受けた上、被告に本件車庫を賃貸することとした事実が認められる。

なお、《証拠省略》から、昭和五一年六月二九日原告が本件車庫の贈与を受けた後も、被告がその固定資産税を払っている事実が認められるが、右認定を左右するに足りず、その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

四  請求原因5の事実は当事者間に争いがない。

五  次に、同6の事実は、そのうち、(一)ないし(五)については前記三の1ないし6に認定のとおりであるので、同6のその余の事実及び請求原因に対する認否6の(八)の被告主張事実について検討するに、同6の(六)の事実中原告が、本件家屋の残りの部分の賃貸前は同部分に居住していたこと及び現在はアパートに居住していること並びに請求原因に対する認否6の(八)の被告主張事実中被告が本件家屋、土地で運送業を営み、従業員を多数かかえ、営業車両を多数所有し、本件建物にその妻、子供二人と共に居住している事実は、当事者間に争いがない。

そこで、《証拠省略》並びに右争いのない各事実を総合すると次の各事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

1  原告は、昭和四八年六月本件家屋の残りの部分を被告に賃貸して、明け渡した後は、原告の夫と共に、民間のアパートに約二年、親戚の住居に一年余り、民間のアパートに約四年とそれぞれ賃借の上、居住し、そして現在の親戚のアパートを賃借し、居住するに至っている。原告夫婦は共に明治三九年生まれの高齢でもあり、特に原告の夫は肝臓の疾患、神経痛、高血圧等で入退院を繰り返している状況で、いつまでも二人だけで生活することは困難な状況にある。そして、原告の三男は、既に昭和五五年春に沖縄の勤務を終え、帰京し、本件家屋を建て替えて、その家族と共に、原告夫婦と同居する希望を有しているが、現在は妻の実家に寄寓している状況にある。

なお、原告の親戚には現在の原告の居住しているアパート等の不動産を所有している者がいるが、原告がその夫と共に原告の三男と同居できる場所として本件土地を含む本件全体土地以外にはない。

2  他方、被告は、昭和四八年二月本件土地等の賃借前は免許なしのいわゆるもぐりの運送業者として、貨物自動車三台を所有し、訴外東京運輸の下請け等を細々としていたが、右賃借後間もなく賃借の目的であった運送事業の免許を取得し、次第にその経営に係る事業を拡張し、その結果現在では小型二トン車七台、普通四トン車と大型一一トン車八台の合計一五台の貨物自動車を所有し、従業員一五名を使用し、住友倉庫等の固定した得意先を有し、本件土地以外にも本件土地からわずか約一・五キロメートルの距離にある第二駐車場を賃借し、右のうち小型二トン車七台以外の貨物自動車を収容するまでに成長し、本件家屋、本件土地等を明け渡すことは、被告の経営に係る運送事業に大きな有形、無形の打撃を与えることは否定し難いが、当初の本件各賃貸借契約の目的に立ち帰るとき、本件家屋を事務所ないし住居として、本件土地を駐車場として賃借した所期の目的を一応達したと評価し得る。

3  原告は、右1のとおり、原告の夫の健康もすぐれず、原告の三男夫婦との同居する必要、すなわち本件建物、本件土地の明渡しを受ける必要に迫られたため、被告との本件各賃貸借契約に従い、右各契約の期間満了の一年以上も前の昭和五三年春ころから被告と本件土地等の明渡しの交渉を開始したものの、明渡しの話は進展しなかったので、訴外畠山と相談して、昭和五三年七月一三日到達の「通告書」と題する内容証明郵便を被告に送付し、本件各賃貸借契約の更新拒絶の意思表示をした上(右通告書には本件土地の明渡しについては直接触れられていないが、本件車庫の明渡しに言及しているところから本件土地の明渡しを求める趣旨も含まれていると解することができる。)、原告の夫、訴外畠山を交えるなどして、被告と明渡しの交渉をした。

しかし、被告が車の事故が相次いで借金が多く、本件土地に代わる駐車場を借りる資金がないので、もう一回だけ本件各賃貸借契約を更新して欲しい旨主張したので、原告は前記のとおり被告をその学生時代からアルバイトとして使っていた関係等から被告に理解を示す原告の夫の心づかいもあり、本件土地の約半分が道路拡幅工事の買収計画にかかるため主として本件家屋の跡地に三階建てのビルを建て、一階を車庫として被告に賃貸する妥協案まで提案し、数回にわたり被告を説得したにもかかわらず、被告が一階を駐車場に、二階を住居として賃貸して欲しい旨の過大な要求をして譲らず、右要求を認めれば、原告の三男との同居を実現することができなくなるため、原告は、昭和五四年三月二四日到達の「再通知書」と題する内容証明郵便を被告に送付し、重ねて本件各賃貸借契約更新拒絶の意思表示を明確にするに至った。その間今日に至るまで、被告は、本件家屋は、被告の母がその明渡しを求めて第三者との係争中の賃貸家屋の明渡しを受けたあかつきには明け渡すという「回答書」と題する内容証明郵便を原告に昭和五四年三月一五日ころ送付した程度で、駐車場、事務所及び住居を他に求める具体的な努力を払った形跡は窺われない。

4  前記三の1ないし6に認定したとおり、本件土地の賃貸借契約の目的は駐車場としての使用にあり、その期間は前記昭和五四年六月末日で満了する約定であった。そして、本件家屋の賃貸借契約は、本件土地の賃貸借契約にいわば付随する従たる関係に過ぎなかった。

そこで、本件建物の賃貸借契約の本件更新拒絶についての正当事由の有無について判断するに、前記三の1ないし6、本項五の1ないし4の各認定のとおりの本件各賃貸借契約が締結されるに至った経緯、その目的、右各契約を終了させる原告の必要性、逆に右各契約を継続させる被告の必要性、右各契約を終了させるについての原告の努力及び右原告の努力に対する被告の対応等を総合すると、本件建物の賃貸借契約についてした原告の本件更新拒絶について正当事由が存在することが認められる。

したがって、請求原因6は理由がある。

なお、本件土地の賃貸借契約の目的は駐車場としての使用にあり、車庫の建築は右目的に付随するものに過ぎず、しかも本件車庫の承諾の程度を超えるものであり、後日原告に贈与された上、右車庫について賃貸借契約が締結されていること等を勘案すると、本件土地上に本件車庫が存在するからといって、本件土地の賃貸借契約が借地法の適用を受ける建物所有を目的とする性質のものであると解する余地はなく、また本件車庫の賃貸借契約についてもその車庫の構造、規模等から借家法の適用を受ける建物に該当せず、その賃貸借契約の更新拒絶に正当事由を必要とするのは本件家屋についてのみであることを付言しておく。

六  抗弁事実及び再抗弁事実は、いずれも当事者間に争いがない。

七  以上の次第で、請求原因7の事実について判断するまでもなく、本件各賃貸借契約の期間満了による終了に基づく本件家屋、本件土地及び本件車庫の明渡し並びに右各賃貸借契約の終了の日の翌日である昭和五四年七月一日から右各物件の明渡済みまで一か月金一六万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める原告の被告に対する本訴各請求は全部理由があるので、これらをいずれも認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、仮執行の宣言の申立てについては相当でないのでこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮﨑公男)

<以下省略>

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